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おおよそ全国に3000〜4000人程度いると言われるボバース研究会の会員数ですが、昔からずっと同じことをやっているのではなく、常に新しい知見を取り入れながら進化してきている概念です。

解剖・運動・生理学のベースはもちろん、脳科学や最新の医学を織り交ぜながら治療展開していきますが、あまりボバースコンセプトに触れたことのない方は、何を根拠に講師の先生が治療を行っているのか解らずじまいで終わってしまったり、ちょっと講習会に出て聞きかじりで臨床に取り入れて分かった気になっている人は、なんか残念な気がします。

もちろん、ボバースコンセプトさえ押さえていれば脳卒中リハビリテーションは十分だとは言い切りません。ただ、現代の脳卒中リハビリテーションのトレンドはトレッドミル歩行やロボットアシスト歩行、FES、バイオフィードバック、バーチャルリアリティトレーニングなど多様化しており、それだけの介入ではADLにつながる動きが促されなかったり、患者満足度が低い傾向にあると思います。

患者さんの部分的な問題点に固執せず、全体像から問題点を絞り込む動作分析主体の治療が、理学療法士として必要な治療なのではないかと思っています。

個人的な印象ですが、ちゃんとコンセプトを理解しているボバースセラピストはかなり患者さんの機能回復も良く、患者満足度も高い印象があります。やはりボバースセラピストは患者さんの個別の問題にいかに着目できるかと言うスキルがあるのだと思います。

そのためには、脳卒中の患者さんを目の前にして、何に着目して、何を考えるかが重要となります。

ボバースセラピストでなくても、ボバースコンセプトが何なのか、何を根拠に治療を考えていかないといけないのかを整理するためのオススメの書籍をご紹介します。

まずはこちら

脳卒中後遺症者へのボバースアプローチ〜基礎編〜 (運動と医学の出版社の臨床家シリーズ)
脳卒中後遺症者へのボバースアプローチ〜臨床編〜 (運動と医学の出版社の臨床家シリーズ)



 

内容としては、ボバースコンセプトの概念が分かりやすく書かれています。学生ではちょっと難しいし、ピンとこないかも知れません。ボバース研究会のサイトでは臨床に入って3〜5年目のセラピスト向けに書いていると書かれています。

臨床で患者さんを治療していく中で、「ああ、そういえばあの時の動きはこういう理由があったからか!とか、こういう事があるからこういう治療をしなきゃいけないんだ!」と納得する部分が多いです。

治療方法や考え方が一通り学べると思います。講習会を受けた後の復習用に非常に良いと思います。

脳卒中の臨床神経リハビリテーション―理論と実践

書籍の画像がありませんが、こちらの本は神経生理学的な根拠を元にした治療方法が紹介されています。

こちらの本も非常に臨床的で分かりやすいです。オススメです。

モーターコントロール原著第4版 理解が深まるDVDビデオ付―研究室から臨床実践へ



運動制御理論について学ぶならコレです。Cookさんという非常に有名な方がまとめられた有難い書籍です。

非常に分厚くて読み応えのある本ですが、一冊手元には必要ですね。

動作分析 臨床活用講座―バイオメカニクスに基づく臨床推論の実践



やはり動作分析を学んでいくならコレだと思います。ボバースコンセプトで学べる動作分析の概念をバイオメカニクス的な見知から体系的にまとめられた書籍です。石井先生はボバースとは全く関係ない整形専門の先生ですが、初学者でも非常に分かりやすいです。

この書籍を読んで、一度石井先生の講義を受けてみられると良いと思います。非常に講演の上手い先生ですので、学生からでも十分学べる研修会です。


リハビリテーションのための脳・神経科学入門



森岡先生が書かれたニューロリハビリテーションの基礎とも言える素晴らしい本です。入門と書かれていますが、サラサラと読めるほど簡単に書かれていないですが、非常に大切な事が書いてあります。

本を読んでみて少しわかりにくい場合は、森岡先生の研修会に参加して見ると良いと思います。森岡先生は全国を飛び回っておられますので、機会のある方は聞いてみてください。最新のニューロリハビリテーションの知見が学べると思います。

タッチ (神経心理学コレクション)



患者さんに触れると言う事はどう言う事なのか、何を考えて触れていくかで治療効果が違います。

この本を読む事で、患者さんへの適刺激はどうしたら良いのか考えさせられます。ハンドリング再考で是非一冊必要かと。

How to touchを学ぶならコレです。

脳と運動 第2版 ―アクションを実行させる脳― (ブレインサイエンス・シリーズ 17)



こちらの本は非常に読みやすく、運動を起こすための脳の仕組みがわかりやすく書かれています。

日常生活の中でこういう風に動く!といった時にどのような事が脳で起こっているのか知りたい時にはこれです。

レビューにもある通り、どの分野の人が見てもわかりやすいような本になっています。

感覚入力で挑む―感覚・運動機能回復のための理学療法アプローチ (臨床思考を踏まえる理学療法プラクティス)



個人的には非常に面白く読み進められたのでオススメです。

臨床において、どのようにして感覚入力をしながらアプローチしていく事が大事なのか、かなり目からウロコです。

脳卒中後遺症者へのニューロリハビリテーション~急性期から回復期の麻痺改善を目指す徒手的介入~[リハビリ理学 ME180-S 全4巻]
脳卒中後遺症者 の ADL障害 に対するアプローチ ~ PT ・ OT ・ ST の協業を中心に ~ [ 理学療法 DVD番号 me137 ]

 

こちらは書籍ではありませんが、日本ボバース研究会会長の伊藤克浩先生によってDVD化され、具体的な治療介入の方法や、個別介入の方法論がまとめられています。

視覚的に見る事が出来るので非常に分かりやすいです。
最近やたらと言われるCPGですが、結局どうやって賦活してCPGを駆動させるように働きかけたら良いのでしょうか?

CPGについては、以前述べました。⇨歩行におけるセントラルパターンジェネレーター(CPG)の働き

講習会などでもよく聞かれますし、臨床で治療していてもCPGのようなオートマティックな働きがあることを歩行練習をしていて感じる事ができます。なんとなくですが、、、

実際にCPGに影響を与える感覚としては、2つの筋の関与が大きいと言われています。

1つは股関節屈筋、もう一つは足関節底屈筋です。

股関節伸展運動に伴う固有感覚の刺激により、空中でステップするような反射的な動きが生じることについて古くから知られています。ラットにおいてもCPGによる周期的な筋活動は、身体を水平位で歩かせるよりも垂直位で歩かせる方が規則性を高めると言われています。(つまり股関節屈筋を引き延ばすような姿勢で歩くこと)

⇨こういったことを考えると、リハビリ中の歩行練習でもできるだけ股関節の屈筋に伸長刺激が加わるように工夫するといいんだという事がわかります。

立脚終期に生じる股関節屈筋の遠心性筋活動を感知する筋紡錘の情報が、遊脚期開始のタイミングに影響を与えているとされています。

股関節屈筋が伸長される固有感覚情報によって、歩行リズムが形成されていくため、トレッドミルなどで下肢をグイッと後ろに持っていくことにより、股関節屈筋を伸長する刺激もかなり有効なのではないかと思われます。


また、足関節底屈筋への荷重負荷も、徐脳猫の歩行中の底屈筋活動を増加させる因子とされ、CPGに影響を与える事が古くから指摘されてきました。現在では、荷重に伴って生じるアキレス腱のゴルジ腱器官を介した荷重刺激が重要な影響を与えると考えられています。

荷重下では足関節底屈筋の活動が上がり、荷重負荷が減少すると底屈筋の興奮は減少し、遊脚期の準備を始めます。

こういった刺激がCPGに影響を与えるのですね。

(大畑 光司:歩行再建―歩行の理解とトレーニング:三輪書店:2017)



慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者さんで動作後の息切れが生じる方は知らず知らずのうちに運動量が多すぎて息切れにより疲労感が強かったり、動作によっては酸素消費量が多くないのにも関わらず、息切れを生じさせてしまう事があります。

なぜ、息切れが生じてしまうのかを理学療法士が患者さんにちゃんと説明していく事が重要となります。

息切れを生じさせてしまう大きな原因としては4つあります。

①上肢挙上動作

⇨そんな事で息切れが生じるのですか?と思いたくなりますが、上肢挙上により息切れが生じるのは、上肢を挙上する事で胸郭の動きが制限される事が原因となるためです。上の方の竿に洗濯物を干したり、浴室で髪を洗ったり、上着の着脱、冷蔵庫の上のものを取るときなど意外とちょっとの時間の動きでも息が切れたりします。

②腹部圧迫動作

⇨これも知らず知らずの間にやって、なんで息がきれるのだろうと思う方は多いのではないかと思います。前傾姿勢を取る事で腹部が圧迫され、横隔膜の動きが制限される事が原因です。具体的には、下着・靴下・ズボンを履く際に前傾姿勢になる動作、床のものを拾おうとして前かがみになる動作などがあります。

③息止めの動作

⇨これも無意識にやってしまう事があるのではないでしょうか。息を止める事で、酸素を取り込めなくなる事が原因です。具体的には、排便時のいきみ、食事・洗顔・会話時です。

④反復動作

⇨つい一生懸命になるとやってしまいがちなのがこれです。力を入れ続ける事で動作が早くなりやすく、酸素消費量が増加する事が原因です。具体的には歯磨き・掃除機をかける・洗体・風呂掃除などです。

以上の①〜④の動作が生じないように、日常生活動作を行うように患者さんに指導していく必要があります。

ではどうゆうふうに工夫して動作をしていけばいいかと言うと、、、

○ゆっくり動く
○連続動作を避け、動作と動作の間に休憩を入れる
○呼気時に動く
○労作時に必要な指示量の酸素吸入を正しく行う事


となります。

ただ、患者さんは運動学や生理学の知識が無いので、どのようにして気をつけて良いのか分からない状態です。

具体的にどのような日常生活動作の指導の工夫をしていけば良いか紹介させていただきます。

①洗面でのポイント

・歯ブラシは電動のものを利用する
・肘を洗面台にのせて歯磨きを行う
・椅子に座って洗面する
・うがいの水は手ですくわず、コップを使う
・鼻カニューラをつけたまま洗顔する
・呼気に合わせて洗顔する


⇨患者さんは上肢を上げたままだと辛くなるので、自然と肘をテーブルの上に置いたりされます。そう考えると、テーブルの高さを適切な位置に設定すると患者さんも使いやすいかと思われます。

②排泄時のポイント

・息を止めずに、ゆっくりと息を吐きながら徐々に腹圧をかける
・便を柔らかめにコントロールするために、緩下剤を使用・調整する
・温水洗浄便座を利用する


⇨排泄時はやはり、いきまないように注意する事が大切です。普段から意識しておくように指導しましょう。

③更衣時のポイント

・前開きの衣服を選ぶ
・椅子に座って更衣する
・被り物の服を着るときは先に腕を通しておき、呼気に合わせて頭から被り、呼吸が整ってから鼻カニューラを付け直す
・下着を履いたり、ズボンの足先を通したり、靴下を履くときは、足を膝の上に乗せて履く
・衣服をあらかじめ重ねておく


⇨着圧のきつい靴下などは特に息切れが強く出現します。弾性ストッキングなどが必要であれば、それは他の方につけていただく方が良いかもしれません。

④入浴時のポイント

・脱衣所に座面の高い椅子を設置し、更衣や休憩に利用する
・シャワーを利用する
・浴室内では座面の高い椅子を利用し、洗面器や必要なものは台の上に載せる
・長めのタオルを利用し、腕をできるだけ挙上せず、下げたままで背中を洗う
・足を洗うときは、台の上に載せて洗う
・シャンプーハットを利用して洗髪する
・顔より高い位置でシャワーヘッドを固定して頭を流す
・洗髪・洗体の日を分ける
・半身浴を行い、体を冷やさないように乾いたタオルを肩にかけておく
・バスローブなどで体を保温して、椅子で休憩した後に体を拭いたり、着衣に取り掛かる


⇨日常生活の中で特に息切れを生じやすい入浴動作ですが、一気に動作を行わないように気をつけることと、頭を洗っている時に息を止めないように気をつける事が大切ですね。

⑤家事全般

・物干し竿の高さを低くする
・洗濯物、洗濯かごなどは下に置かず、台の上に載せる
・あらかじめ、座ったままハンガーなどに洗濯物を通しておく
・細かいもの(小さいハンカチ・靴下・下着など)は洗濯ネットにまとめて洗濯し、洗濯機から取り出しやすいようにする
・掃除は日にちを分けて行う。(今日はリビング、明日は寝室など)
・浴室掃除は長い柄のついたスポンジを利用する
・椅子に座りながら、食事の下ごしらえや調理を行う
・よく使う調理器具、食器、食品などはできるだけ低いところや高いところに保管しない
・食器洗い機を利用する


以上の①〜⑤が特に気をつけるべきポイントかと思われます。非常に参考になりますね。

しかし、息切れの症状の強い時など、動作が困難な場合は無理せず家族の方の協力を得たり、ヘルパーなどのサービス利用を駆使していくことも大切です。

本人が自分でできると思い込み、勝手に行ってしまい、動作後の息切れが強く出現したりと指導も難しい場面にも遭遇すると思いますが、一つ一つ動作指導を丁寧に行っていく事が重要かと思われます。

(桑原田 真弓、石原 英樹、竹川 幸恵:酸素療法まるごとブック: 救急から在宅までとことん使える! (呼吸器ケア2016年冬季増刊):メディカ出版:2016)




「この患者さんは明日から病棟内は杖歩行自立で歩いていただきます。」

こういった判断は担当の理学療法士が行いますが、何を持って自立と判断しますか?

いつまで見守りが必要なのですか?

なんとなく?

〜だからまだ自立は難しいとか、〜だからもう自立で大丈夫等と説明がきちんとできるといいですね。

回復期リハビリテーション病棟では、車椅子自立レベルの方が歩行器歩行自立レベルへ、歩行器歩行自立レベルの方が杖歩行自立レベルへとADLの段階を上げていく時期にある方が多いと思われますが、その具体的な自立のタイミングの判断は個々のセラピストの経験知に委ねられる部分が大きいと思われます。

新人のセラピストは、先輩に相談しながら進めていくことであると思います。

「そろそろ自立できそうかな?」など感覚的なものではなく、これができているから歩行自立で大丈夫と自信を持って言えるかどうかが大切かと思われますが、その歩行自立の基準が明確に説明できるといいですね。

まず、一番の問題はリハビリ中の「できるADL」と病棟内での「しているADL」に乖離が生じている患者さんがいるという事ですね。

リハビリ中の歩行練習の時にはしっかり歩いていた患者さんが、看護師さんと病棟内を歩くとやけにフラフラして倒れそうな時があると言う事はよく聞きます。

なので「しているADL」を見ることのできる看護師さんに協力していただき、簡便な項目で評価できたら起こるべき転倒を未然に防げるのでは無いかと考えられます。

今回は、実際に東京厚生年金病院で実施されている評価を参考にさせて頂きます。

評価項目は以下の通りです。

◉病棟内歩行自立判定テスト(東京厚生年金病院リハビリテーション室)

①ベッドのカーテンの開閉ができる。

⇨これは意外と立位バランスが良くないと難しい動きです。自分でやってみるとよく分かりますが、フワフワしているカーテンをリーチして掴んで、左から右へ(または右から左へ)動かす動きはかなり下肢の支持性と重心制御のスキルが求められます。

これは、ベッドサイドでもリハビリ時にやっておくといいですね。結構、見落とされる動きです。

②後ろ歩きが3歩できる。

⇨高齢者の患者さんを始めとして、脳血管障害や運動器疾患の方以外にも後方不安定性が非常に多い中、後ろ歩きの評価は必須であると思います。

実用的にも3歩できれば十分かなという感じですね。普段そんなに5歩も10歩も後ろ歩きはしないですよね。

③立位で床に落ちた杖を拾うことができる。

⇨床に落ちたものを拾おうとして転倒したという事例は非常に多いです。まさに転倒あるあるです。

床のどこに落ちたかという問題もありますが、とりあえず床に落ちたものを拾う事ができるかどうかも必須項目かと思います。

④その場まわり(180度)が右回り・左回り共に行える。

⇨方向転換時にバランスを崩しやすいという問題です。方向転換の動きはリハビリ室で確認されていると思いますが、個人的には特に着座する際の方向転換で特にふらつきやすい印象があります。

もうすぐ座れるという安心感からか、崩れるように着座される方が多くいます。要チェックです。

⑤目標の場所まで到達できる。

⇨自室・食堂・トイレ・浴室・洗面台などそれぞれの目的の場所まで実際に行けるかどうかです。必要な移動距離が運動機能的な問題でリハビリの時にできてて、病棟内でできないという事はそんなに多いことでは無いかとは思いますが、重要な事であると思います。

これは、高次脳の問題などが含まれるかもしれません。

⑥机の前の椅子を引いて座り、立ち上がって歩き出す。

⇨立位バランスの悪い方は、椅子を後ろに引いた時にバランスを崩してしまうケースがあります。テーブルにはつかまるところが何も無いので、近くに人がいても転倒を生じてしまう事があります。

また、歩き出しの2、3歩は特にふらつきやすくなるため、立ち上がって歩き出した4、5歩くらいまで安定して歩けるのかどうか評価していけば良いかと思います。

⑦病棟の廊下を大回り1周できる。

⇨病棟内歩行自立にするという事は、患者さんに病棟内を自由に歩いてもらうという事であり、最低限の動線に加え病棟内を散歩することもあるかもしれません。

歩行時の持久力が低下している患者さんであれば、歩いているうちにだんだんフラフラしてきたり、だんだん小刻み歩行で前のめりの姿勢になってきたり、足をつまづかせたりなんて事があるかもしれません。

大きく1周は歩いて歩行に変化がないことだけは確認しておいた方が良いでしょう。

⑧病棟内の歩行自立が可能だと思う。

⇨これは、評価する看護師の経験的な予測や直感によるものです。高次脳機能や認知機能の問題も含んでいると思いますが、これが結構現場では重要だったりします。ベテランの看護師さんが「この人転びそう」という感覚はかなり当たっている事が多いです。

以上の①〜⑦までは実際の患者さんの動きを見て看護師が記入し、⑧は経験知に基づき判断してもらうものです。

現場では、①〜⑧項目が看護師により3日連続でクリアし、最後に担当医が自立の可否を決定するというものです。

それぞれの患者さんにより転倒要因は違うかもしれませんが、こういった側面で評価していくことも良いのではないかと思います。

(上内 哲男:回復期リハビリテーション病棟における歩行自立判定テストと自立後の転倒者率:2012)



血糖が持続することは血管の内壁を傷つけ、動脈硬化などの良くないことを引き起こし、狭心症や心筋梗塞、脳卒中の原因を作る可能性があります。

運動療法によって血糖値の上昇を抑える介入をするはずが、逆に運動によって血糖値を上げてしまったなんてこともあります。それはどんなときなのでしょうか?セラピストはそういう場合もあることを気をつけなければいけません。

3つの場合が考えられます。

①適切な血中インスリン濃度がないと、骨格筋での糖利用よりも肝臓での糖新生が上回り、血糖が上昇する。

健常者では肝臓からの糖放出と末梢組織での糖利用が等しく、血糖値は食事や運動の影響を受けずに狭い範囲でコントロールされています。しかし、糖尿病患者では病態としてのインスリン分泌不全やインスリン抵抗性のために、①肝臓の糖放出の抑制不全、②食事由来のブドウ糖の肝糖取り込み低下、③末梢組織での糖取り込み低下によって高血糖が生じます。

空腹時血糖値が250mg/dL以上の血糖コントロール不良患者では、運動療法は勧められません。

⇨安易に運動を開始するのではなく、このような状況下では運動は控えた方がいいということを頭に入れておいた方が良さそうですね。

②高強度の運動により、インスリン拮抗ホルモンの過剰な分泌が起こり血糖は上昇する。

インスリン拮抗ホルモンにはグルカゴン糖質コルチコイド、カテコラミン、成長ホルモンなどがあり、これらの過度の分泌は肝臓の糖放出の亢進、末梢組織でのインスリン抵抗性の増悪を介して血糖を上昇させます。インスリン拮抗ホルモンの分泌は運動強度と相関して増加し、嫌気性代謝閾値(AT)を越えると顕著になると言われています。したがって高強度の運動では血糖が高くなる可能性があります。

⇨こう考えると、やはり強い運動処方は良くないなということが分かります。

強い運動負荷をかけて血糖値を余計に上げないように、担当の理学療法士は注意しておく必要がありますし、患者さんが自主的に運動する際はこのことを念頭にして運動をして頂くことが重要かと思います。

③心理的要因、外的環境により血糖上昇を招く。

心理的ストレスや運動中の痛みは、インスリン拮抗ホルモンを増加させて血糖が高くなる可能性があります。また、30度以上の高温下の運動でも交感神経系の活動が活発になり、血糖の上昇を招きます。

⇨交感神経系が過活動になるような状況も血糖値を上昇させてしまうのですね。患者さんには出来るだけストレスの無いようにリハビリテーションを実施し、あまり暑く無い最適な温度の部屋でリラックスして行うことが理想ですね。

(:ここで差がつく“背景疾患別”理学療法Q&A (理学療法NAVI):医学書院:2016)

歩行時の腕の振りは、誰しもが歩行をすると自然と出てきます。ただ、なぜ上肢を振る必要があるのか答えられますか?

また、脳卒中後の患者さんや、パーキンソン病の患者さんは一様に上肢の振りが少なく、体幹固定で歩いているような印象です。何故なんでしょうか?

言われる事としては、、、

「ヒトが上肢を振って歩く理由は、主に歩行時のエネルギー消費を抑えるためと、歩行時の安定性を保つためと考えられている。」

「同じ速度での歩行において、自然な上肢の振りをした場合は、上肢を振らずに歩いた場合に比べて約8%エネルギー消費量が減少する。」

とあります。

実際に上肢を振って歩くのと、振らずに歩くのでは振って歩いた方が確かに楽に歩けるような気がします。

どういうことが起こっているかというと、、、

「自然歩行では左右交互に振り出される下肢の動きによって、身体の鉛直軸周りに回転運動が生じる。それに対して上肢は、下肢の動きとは拮抗する方向に左右交互に振られ、身体全体の角運動量を限りなくゼロに近づけている。それにより、余分な筋力の発生が抑えられ、エネルギー消費も抑えられる。」

とあります。

つまり「でんでん太鼓」みたいなイメージですよね。

バイオメカニクス的には、下肢・体幹の回旋の動きをキャンセルする役目が上肢の振りにはあると言われていますが、まさにその通りであると言えますね。

実際に、上肢を振っている時の上肢の筋活動はどうなのかというと、、、

「上肢の振りは主に肩関節屈伸で行われているが、肩関節周囲筋の収縮はほとんど認められないか、三角筋や広背筋、僧帽筋にわずかに認められるのみである。したがって歩行時の上肢の振りは、肩甲帯の回旋や慣性力、重力などの作用により主に受動的に行われている。」

ということです。

イメージ通りで、上肢は自分で振ろうとして振っているわけではなく、受動的に上肢を振っている訳ですね。

ということは逆に言えば、下肢の振り出しが少なく、歩行時の体幹の回旋が少ない方は自然と上肢の振りが少なくなると言えますね。

また、

「歩行時の安定性については、自然歩行における腕の振りは限定的であるが、歩行時に外乱が加わった時などは上肢の動きを利用してバランスを回復する。そのため、腕を拘束した歩行では安定性が低下すると言える。」

とあります。

確かに、綱渡りをするように歩行するときはバランスを取るために、いつもより大きく上肢を動かして歩いていく印象です。安定性を取るための上肢の動きとして利用できる場合もあるということですね。

上肢は歩行中に振ることが出来て損はなく、安定性にも良いと言えますね。

(市橋 則明:身体運動学−関節の制御機構と筋機能:メジカルビュー社:2017)



脳卒中の患者さんに対して回復期においては、どうのようにリハビリを計画していけばいいのでしょうか?

回復期といえば急性期の不安定な身体状況から回復し、リハビリテーションに専念して機能回復をどんどん行っていく時期になりますが、結局色々なリハビリがある中でどのようなリハビリをしていけば、患者さんのADLを最大限まで引き出すことができるのでしょうか?

特に言われているのが、、、

「集中的な理学療法の実施時間を増やすこと。上肢のCI療法や下肢への課題反復型の練習が推奨される。また、有酸素運動能力や下肢筋力の増強を目指す介入、応用歩行能力に通じる二重課題を課した介入も推奨される。なお、行わない事が強く推奨される事項は無い。」

とにかく、麻痺の回復を促すためにも、ADL向上のためにも、どんどん反復して動かして訓練時間をしっかり多くとれという事に尽きますね。

「脳卒中による機能障害は運動機能であれば3ヶ月、動作能力であれば6ヶ月まで回復の幅が大きい」とあります。

⇨ステージ理論による脳卒中後の回復過程

ステージ理論においてもこのような経過をたどるため、発症3ヶ月を過ぎて6ヶ月になっても歩行時の下肢の振り出しでつま先が引っかかるのは足関節背屈が出ないからだと一生懸命それだけを訓練で頑張るのではなく、3ヶ月を過ぎる頃にはどちらかというと今ある残存機能を元にどうやって動作の効率を高めていくか、つまり動きやすく動くためにはどうやって工夫したらいいかを少しずつ考えていかねばいけないという事ですね。

具体的には、適切な下肢装具を処方したり、骨盤の引き上げによる代償をある程度許容する中で局所に負担のかかりにくいような動作の仕方を考えたり、ハムストリングスの強化により膝関節屈曲の代償をある程度許すようにしていったり、、、。

こうも言われています。

「回復期理学療法の治療効果は重症度によって異なり、最重症と軽症よりも中等症での変化の幅が大きい。機能的予後は脳画像の病巣部位と大きさから脳の機能的可塑性が予測され、ADL自立の予測のポイントは年齢、脳損傷の大きさ、神経症候や麻痺の重症度、病前ADLとなる。なお、疫学的に見ると機能的予後は脳梗塞の方が良い。」

臨床的にも、そうだよなあという感じがします。

発症直後から歩行が十分に可能で、手の動きも良い方は特に変化に乏しいですし、逆にあまり重症な脳卒中の患者さんが劇的に改善する例はほとんど見たことがありません。変化の率が一番大きいのはやはり中等症の方で、じっくり時間をかけてだんだん良くなっていくイメージですね。

機能的予後が良い人はやはり、脳画像を見ても錐体路を全体的に直撃しているような病巣の人は少ないですし、特に大きく予後を分けるのは、年齢と発症前ADLだと個人的は感じています。これはなんとなくですが、、、。

個人差はあると思いますが、脳梗塞の方が全体的には予後がいいんですね、、、。

これらの考えを元に現在推奨される治療・介入の方法をまとめていきます。

①介入時間の確保(推奨グレードB)
移動・セルフケア・嚥下・コミュニケーション・認知などの複数領域に障害が残存した例では、より専門的かつ集中的に行う回復期リハを実施することが推奨される。

⇨グレードBになっていますが、個人的にはかなり重要なことであると思っています。ただ、時間をかければいいかというとそうではなく、専門的な介入時間の絶対的な量を増やしていく必要はあるかと考えています。

リハビリ時間以外でもただ、食堂で車椅子に患者さんが座ったままになるのではなく、看護師などの介入によって担当セラピストが指導した自主訓練をして過ごすだけでも大分違うと思います。

②麻痺側上肢への課題反復(推奨グレードA〜B)
上肢に対する運動負荷を積極的に繰り返し、特定の動作の反復を行うことが大切で、CI療法、ミラーセラピー、手関節背屈に対する電気刺激、随意運動介助電気刺激、ロボット装置を使った感覚運動トレーニング、促通反復療法などが上肢機能向上に有効である。

⇨脳卒中後の肩の痛みに注意しながら、上肢もどんどんいろんな介入をしていくのがいいと思います。特定の治療に固執せず、様々な手段で患者さんに課題をチャレンジしていただくのが良いのではないでしょうか?

③痙縮(推奨グレードA〜B)
痙縮による関節可動域制限に対してはボツリヌス療法が強く勧められ、高頻度の経皮的電気刺激も勧められる。

⇨やはり痙縮は悪です。リハビリを行う上で阻害因子になるので、しっかりと痙縮に対する介入も必要となってくると思います。

④麻痺側肩(推奨グレードB)
麻痺側肩の可動域制限に対する関節可動域運動や、亜脱臼に対する機能的電気刺激、肩痛の予防に対するスリングの使用も視野に入れる。

⇨脳卒中後の肩の管理については注意していく必要があると思います。

脳卒中後の合併症~肩関節の亜脱臼

⑤立位動作(推奨グレードA)
起立・着座や歩行練習の量を多くすることが強く推奨される。

⇨今の回復期病棟でのリハビリテーションでの運動量は十分に確保されているのか?という問題点に対し、警鐘を鳴らされている方もおられます。実際、起立・着座訓練、歩行訓練の量は思ったよりもまだ量的に少ないのではないでしょうか?もっとこういった訓練量をリハビリテーション時間でも病棟でも増やしていいのではないかと個人的には思います。(リスク管理はしながら)

ちょっとマッサージして筋緊張を是正して、感覚の訓練と可動域の訓練をして、最後の10分だけ歩行練習みたいな感じになっていませんか?できる人であれば、もっと負荷をかけていいと思います。

⑥歩行練習(推奨グレードB)
内反尖足に対する短下肢装具、筋電バイオフィードバック、免荷歩行器を使ったトレッドミル上での歩行練習、機能的電気刺激療法、歩行補助ロボットを使用した歩行練習、サーキットトレーニングが求められる。

⇨医療機器が揃っている施設・病院では積極的に取り組んでもらったらいいと思いますし、十分に機器の使用方法や効果を理解したスタッフがやっていただきたいと思います。

⑦ADL課題の練習(推奨グレードA)
ADL能力向上のために、集中的な理学療法や作業療法を行い、その時間を増やすことで課題反復型の練習が効果的で、強く勧められる。歩行課題では、屋外での歩行の推進につなげるために、様々な路面形状で必要距離を歩行する経験や、周辺環境に対処しながら歩行を遂行する二重課題処理能力がポイントとなる。

⇨運動療法で、大殿筋や大腿四頭筋、前脛骨筋の筋力が向上したら立ち上がれるようになるかといえば、そんなことはなく、立ち上がれるようになるためには立ち上がりの動作の練習をしっかりしないといけません。ADLにつなげていくには課題反復型の練習は必須です。また、歩くときも日常生活ではただ歩くだけでなく、話したり物を持ったり、周りの環境に注意したりといろんなことを考えながら歩かないといけないので、二重課題処理能力も重要です。

⑧体力の向上(推奨グレードA)
トレッドミルや自転車エルゴメーターでの有酸素運動と下肢筋力増強を組み合わせたプログラムで、最大酸素摂取量や歩行能力を優位に改善させることができる。

⇨脳卒中片麻痺患者さんは健常者に比べて、最大酸素摂取量や乳酸性作業域値などが低いと言われています。確かに、ちょっと杖歩行したら「疲れました」と言われますし、体力の低さを感じます。やはり、片麻痺になってからは、かなり健側の下肢での立位コントロールが求められますし、両側の体感機能が低下した状態で、感覚情報が入ってこないまま同時収縮を高めた歩き方は、ただただ疲れるイメージがします。自分でやってみたらよくわかります。

ベースの体力をしっかり向上させていくことは、日常生活自立のためにもかなり重要なことであるとも思います。

⑨低栄養の評価(推奨グレードA)
嚥下障害に関連した低栄養状態が多く認められ、他職種で連携することが勧められる。栄養は血清アルブミン値や、体重減少率から把握する。

⇨今盛んに言われている栄養の問題ですね。アルブミン値が低い方は結構おられると思います。どの時期の栄養状態を反映している数値なのか注意しながら、しっかり栄養管理もしていくことも大事だと思います。

⑩認知障害の把握(推奨グレードB)
半側空間無視、注意障害、遂行機能障害、情緒行動障害、うつ状態などについて評価を行うことが勧められる。

⇨これらについて把握することは、時によっては運動機能を見ることよりも優先される場合があります。運動機能は向上してきても、高次脳機能障害や、認知障害が原因でADLの自立が困難になることは臨床上非常に多く感じます。何ができて、何ができないのか。どういう時に注意しないといけないのか。詳細を把握し、対策・手段を考えていくことが重要になります。

(内山 靖:エビデンスに基づく理学療法 クイックリファレンス:医歯薬出版:2017)

記事更新が久しぶりですが、少しずつ更新していきます。

臨床上多い変形性膝関節症の痛みですが、痛みの訴えから原因がどこにあるのかアセスメントしていくことが重要です。

まず、膝の痛みを生じるときはどんな時に膝が痛いか確認します。

どんな時に痛いか?

1.平地歩行時
→荷重時や歩行時の痛みであれば、膝伸展位での圧刺激の反応である為、大腿脛骨関節由来の疼痛である可能性があります。

2.階段昇降時
→階段昇降時に膝が痛い場合、膝屈曲位での圧刺激に反応がある為、膝蓋大腿関節由来の疼痛の可能性が高いです。

3.夜間痛
→夜間時の痛みがある場合、化学物質による炎症が生じていたり、夜間に膝関節にストレスが生じるような姿勢をし続けている可能性があります。

4.安静時痛(臥位・座位)

5.立ち上がり時
→階段昇降時と同じです。

どのような痛みか問診をし、痛みの種類から何が原因なのかを判断していきます。

どのような痛みか?

筋由来
鈍い・疼く・締め付けられる

神経由来
鋭い・光が走るような・火がつくような

骨由来
深い・しつこく苦しい・鈍い

骨折由来
鋭い・激しい・耐えられない

血管由来
脈打つ・拡がる

(Magee DJ:Orthopedic physical assessment 2003)



圧痛による評価

①膝蓋下脂肪体由来の疼痛
→膝蓋下脂肪体の部分に圧痛があれば、膝蓋下脂肪体由来の疼痛の可能性が高いです。
この痛みの主訴としては、階段昇降の特に降りで疼痛を訴えるケースが多いです。また、起立・着座にて疼痛を生じ、膝前面に鋭痛を生じます。
ROMでは完全伸展が不足し、筋力では膝伸展力不足の所見が見られます。
この部位への治療介入での治療効果は即効で、治療後すぐ痛みが軽減したりします。2週〜1ヶ月程度で疼痛は消失します。


②半膜様筋由来の疼痛
→半膜様筋付着部での明確な圧痛所見があった場合に、半膜様筋由来の疼痛を疑います。
この痛みの主訴としては、階段昇降の特に降りで疼痛を訴えるケースが多いです。また、起立・着座にて疼痛を生じ、歩行時痛で膝の内側痛の訴えがあります。
ROMは伸展・屈曲ともに不足しており、筋力は伸展で不足しています。治療介入において平均2〜3ヶ月で疼痛消失します。


③内側側副靱帯・鵞足由来の疼痛
→内側側副靱帯(関節裂隙レベル)・鵞足(薄筋・半腱様筋)で圧痛を生じた場合、内側側副靱帯・鵞足由来の疼痛を考えます。この痛みの主訴としては、階段昇降の特に降りで疼痛を訴えるケースが多いです。また、起立・着座にて疼痛を生じ、歩行時痛で膝の内側痛の訴えがあります。アライメントとしては下腿が過外旋となっており、大腿の外側にstiffnessを生じていることが多いです。この部位への治療介入では、平均1〜2ヶ月で疼痛消失します。


④内側半月板由来の疼痛
→内側半月板後節の圧痛や、McMurray testが陽性である場合、内側半月板由来の疼痛である可能性があります。この疼痛の場合、明確な疼痛出現日を言うことができます。例えば大きな外力による外傷によって、その後痛くなったなど。この場合の疼痛は運動療法による即時効果は低く、長期的に変形性膝関節症が一気に進行すると言われています。


(八木茂典:機能解剖に基づいた変形性膝関節症の治療~3タイプ8パターンの痛みと動作の治し方~:2017)


※関連記事
変形性膝関節症(膝OA)に対する運動療法


すっかり久しぶりの更新となってしまいました。また、新たにスタートしていきたいと思います。

今回は脳卒中リハを行う前に考えるべき、脳画像読影の必要性です。

広南病院の阿部先生も言われている事ですが、脳卒中の患者さんのリハを行う前に脳画像を見ないという事は、エンジントラブルの車の修理を行う際に、エンジンの状態を確認せずにタイヤなどのその他の部分を触る事と一緒だとしています。

つまり、脳画像を見て損傷部位の程度を確認して、患者さんの症状の予測や、リハビリテーションの介入の方向性、予後予測をある程度立てていく事が非常に大切になってきます。

ただ、脳卒中患者の機能障害や機能予後は、脳損傷そのものによる一時障害と、病前の機能・発症後の機能回復などの二次障害の程度によっても左右されます。

つまり、予後予測においては脳画像の判断だけでなく、患者の年齢や病前の体力、既往歴、リハビリテーション歴などを総合的に考慮する必要があります。

特に、年齢という観点はかなり大きく、高齢者と比較して若年者は体力に優れる為に、多くの運動量をこなす事ができますし、神経可塑性にも優れており、機能回復も臨床的にかなり良い傾向にあります。

実際、画像上においても皮質脊髄路が完全に遮断された片麻痺患者であっても、若年者であれば他の機能代償によって歩行可能レベルにまで到達できる事は、確かに見られています。

(大村 優慈:養成校・教科書では教えてくれない‼ 脳卒中リハの落とし穴100―成功への一歩:ヒューマン・プレス:2017)

脱臼リスク

THA(Total Hip Arthroplasty)は人工股関節全置換術であり、特に臨床でリハビリテーションを進めていく上で術後脱臼は予防していかなければなりません。

THA後の術後脱臼は、近年では1%前後(前側方進入0.7%、側方0.43%、後側方1.01%)と報告されています。

では、脱臼しやすいとはどのような状態なのか考察します。

そもそも術後脱臼の因子としては、手術因子術後因子に分けられます。理学療法士が関与が可能であるのは術後因子ですが、脱臼のリスクファクターを考える上では理学療法士も手術因子の影響も知っておかなければなりません。

整形Dr.との相談も重要になるため、そのための知識としては必要となってきます。

◎脱臼のリスクファクター

○オシレーションアングルとインピンジメント

オシレーションアングル(oscillation angle)とは、人工股関節のカップ内縁とネックのインピンジメント(衝突)が生じるまでの可動域の事です。

以下の図の角度の事です。最近の人工関節のデザインはオシレーションアングルを増大させるために改良されてきています。

オシレーションアングル

しかし、人工関節の可動域は限度があるため、オシレーションアングルを超えて可動域を求めると脱臼肢位である「屈曲・内転・内旋」、「伸展・外旋」でインピンジメントが生じて脱臼しやすくなります。

THAは側方進入の術式では「屈曲・内転・内旋」、前方進入の術式では「伸展・外旋」の複合運動で脱臼が生じやすいとされていた。しかし、どちらの術式においても前述の2つの複合運動でインピンジメントが生じる可能性があり、脱臼のリスクは生じます。

また、インピンジメントはネックがカップ内縁に「カチッ」と当たり生じるインピンジメントと、骨突出部とネックのインピンジメントがあります。骨棘が残っている場合は、脱臼予防の指導は慎重に行います。

○カップの設置角度

カップの設置角度で前方開角が大きすぎる場合は脱臼のリスクが増加します。

カップの実際の角度は、姿勢の影響を強く受けるので動作中に骨盤(カップ)と大腿骨(ステム)の相対的な位置関係がどのように変化するのかをイメージする事が大切です。

○骨盤アライメント

脊柱後弯・骨盤後傾が生じている高齢者の場合は特に注意が必要となります。骨盤後傾位では、カップのヘッドに対する前外側の被覆率が低減し、後方でのインピンジメントが生じやすくなります。

また逆に、骨盤前傾が生じている場合は前方でのインピンジメントが生じやすくなります。

○股関節外転筋力

股関節外転筋を中心とした軟部組織の緊張は、カップに対してヘッドを求心位に保つように働き、こういった筋の緊張が低い患者さんの場合は脱臼の危険性が高くなります。

○ヘッド径とJumping distance

大きなヘッド径を使用した場合は、小さなヘッド径のものと比べてヘッドがカップを乗り越えるまでの距離(Jumping distance)が大きくなるので脱臼のリスクが軽減します。

(杉本 和隆、美﨑 定也、相澤 純也:人工関節のリハビリテーション 術前・周術期・術後のガイドブック:三輪書店:2015)



また、脱臼の時期についてもこのように言われています。

術後3カ月以内に生じるものを早期脱臼、3カ月以降に生じるものを晩期脱臼と呼びます。

股関節は「関節包」という強固な袋に普段は守られていますが、手術の際にはこの関節包を除去するため、再生するまでの間の3カ月は特に注意が必要です。この時に「側臥位(体位交換)中に患肢が落ちる」「不用意に上半身の捻じれが生じる」と言った不用意にとりやすい危険肢位を避けなければいけません。

一定期間(6~12カ月)経つと、関節を保護・安定化させる関節包が再生されて脱臼のリスクが大きく軽減されます。

(中川 法一:トータル・ヒップ・ケア 股関節 チームで支える人工股関節全置換術:三輪書店:2015)



時期に関してはこのようにも言われています。

THAの初回脱臼の半数は術後6週以内に起こる。1年以上経過後の新規脱臼率は低い。

早期脱臼の約1/3は習慣性脱臼となる。

(Berr DJ et al.JBJS Am 2005)



また、手術因子に関してステムとカップの位置についてこのように言われています。

ステムの前捻30°では、カップの外転角は40~45°、カップの前捻角15°程度が望ましい。

いずれもradiografic definition(X線評価)で

(Miki H Clin Biomech 26 2011)



骨頭経については以下のように言われています。

骨頭径が大きくなるとJumping distanceが大きくなり、脱臼しにくくなります。

ライナー径28mm<よりも36mm以上では10年通算脱臼率が1/4~1/2となる。

(Impingement with Total Hip Replacement 2007)



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