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脳卒中などにより、感覚の知覚と認知に関わる部位に病変がある場合では、現状では感覚障害の回復は困難であると言われています。

神経再生の視点から考えた運動療法を行う事は、適切ではないと考えられています。

ただし、一部の感覚種が選択的に障害されている場合は、他の感覚種からの求心性入力で起こる知覚を現実の状況と対照させ、認知する身体状況(座標、関節角度など)を再度基準化する意味においては、感覚障害の改善が期待できます。

どういう事かというと、例えば、脳卒中により下肢の表在感覚が障害され歩行・立位保持が困難な患者さんが、残存している運動覚や位置覚からの情報をもとに下肢の位置情報を把握して、歩行や立位保持を獲得していくという事です。

そのためにどのような要素が必要かというと、次のようになります。

①運動療法を行うための基本的な原則

 不安定版やエアマット、バランスボールなどを使用し、能動的な運動を努力量を調整しながら、身体位置や関節角度を調節しながら課題を行い、関節位置・努力感・運動のタイミング(速度・方向の転換タイミング)・全身の姿勢などの要素に注意を向けながら能動的に運動を行います。

 金子らは、平衡運動保持法を行った所、運動覚や位置覚も改善され、能動的に運動感覚を知覚する運動課題の運動感覚の精度に対する有効性が確認されています。

②注意の付与

 患者さんには訓練内容を十分に把握し、自分の運動に注意を向けてもらうようにし、断続的かつ反復または継続的に行っていただきます。

③結果の知識:knowledge of results(KR)

 「自分がどのように運動したかを話させるのでよく注意して運動してください」などという声掛けを行い、自分の運動を認知させた上で、視覚的な情報や数値の提示などで結果の知識を付与します。練習の回数が同じである場合、KRの頻度は少ない方が学習の成績はよいと言われています。

④局所の運動感覚を意識した運動課題

 例としては、以下のような関節肢位の制御に注意を払いながら行えるような課題です。

運動感覚に注意を向けたエクササイズ ブログ用

⑤感覚再教育

1)感覚障害を自覚させる:感覚消失の程度と範囲を、患者さん本人に確認します。

2)課題の難易度
 課題は患者さんが十分に行えるものとし、興味を引く課題で、学習を促進させるために、失敗と成功が程度にあるレベルのものが好ましいとされます。

3)認識の方法を教えるため、視覚のみではなく健側の手からの入力も知覚するための方策として利用します

4)集中力の維持
 集中力を最大限に持続させるには休憩をとったり、課題を変えたりします。

5)感覚テストとトレーニングに使用する課題や物体は、異なるものとします

6)教示する課題の具体例
 ・書字覚課題
 ・身体図式課題:目隠しをした状態で麻痺側の中指を探しなさいというような課題です。
 ・物体認知課題:手で持ち、日常使う物品の形状や質量、質感を識別します。
 ・他動的スケッチ課題:患者さんは手元を見ないまま鉛筆をもち、その手をセラピストが握り図形を描きます。

(市橋 則明:運動療法学―障害別アプローチの理論と実際:2014)

我々は視覚情報なしに、どの程度足が曲がっているか、どの位置にあるのかを認知できます。これは、筋・腱・関節の固有受容器からの情報によって位置や運動速度、筋力などを感知する「固有感覚」によるためです。

臨床のリハビリテーションの場面で、固有感覚に対するアプローチとして、不安定板やバランスマットなど感覚情報に集中しながら姿勢を制御するトレーニングが行われています。

ただ、こういった練習を行う事によって固有感覚は改善するのでしょうか?

固有感覚の改善の可能性としては、末梢の受容器の変化と、それを処理する脳の中枢性の変化の2つが考えられます。

横紋筋の内部にある筋紡錘は、筋の伸張を感知する器官です。筋紡錘は固有受容器の中で感度を調節できる唯一の受容器であり、指で細かいものをつまもうとする時など、感覚情報に注意が向けられると、一時的に感度を高くして感覚情報を増やそうとします。このために、訓練によって感度を高めることができる可能性がありますが、残念ながら、練習前後で感度が変化したとの報告はありません。筋紡錘の密度に関しても、トップアスリートと一般の人との間で差はないとされており、末梢の変化に対しては否定的な意見が多いのが現状です。

末梢で検知された固有感覚は大脳や小脳に伝えられます。固有感覚の識別課題を繰り返すと、大脳皮質の感覚野での支配領域が2.5倍~3倍に大きくなることが知られています。よって、固有感覚の改善は大脳皮質の可塑性変化による可能性が高いと思われます。

実際に、高齢者を対象としたバランストレーニングの報告では、固有感覚を関節の動き、位置、速度の3つの課題の中で速度の識別課題のみ改善が見られたとのことです。このことから、動作の中で姿勢を制御するバランストレーニングでは、関節の速度の識別能力が向上すると考えられます。

ただ、大脳皮質レベルで感覚が改善されても、日常的な運動下における外乱に対しての反応としては遅すぎるため、皮質下(脊髄・脳幹・中脳)の反射による制御が必要になってきます。

固有感覚訓練によって運動パフォーマンスが改善するのは、入力された感覚から適切な情報を選び出し、運動を素早く選択する処理を皮質下で行うようになるからです。

以上のことから、報告から見ると、固有感覚の改善の原因としては大脳の可塑性変化が考えられますが、臨床においては、大脳皮質レベルでの意識的な訓練のみでは、(素早い動きが要求されるような)運動パフォーマンスには反映されないはずなので、その点を考慮しながらリハビリテーションのプログラムを計画していく必要があるのです。

(市橋則明、小田伸午:ヒトの動き百話―スポーツの視点からリハビリテーションの視点まで;2011)

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