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高齢者 歩行器

筋力トレーニングの方法論について述べられているもののほとんどが健常者、若い方向けのものであり、高齢者に関してどのような筋力トレーニングをしていけば良いのか不明確です。

臨床においては、実際どのように考えていけば良いのでしょうか?

高齢者が筋力トレーニングをした際に、そんなに負荷量が少ない運動でも血圧が急激に上昇したりします。動脈硬化がある方は特に危険かと思われます。また、重たい物を持ったり、息をこらえたりするような運動では、血圧が上がりやすいので注意が必要です。

運動によって血液循環を促しますが、負荷の強い運動では血流が速くなったり、遅くなったりして変化が激しくなり、血栓ができやすい可能性があります。

高齢者や運動不足の方の場合、初期のトレーニングで急激に強い負荷をかけると筋が断裂したり、関節の障害を起こしたりする事も考えられます。実際に筋トレを行う時は、最初は負荷をあまり高くないところに設定して、徐々に上げていくようにしていく必要があります。

若い方の場合、命に危険が及ぶ前に筋の疲労が生じ、運動にストップがかかるためにトレーニングで追い込むことが可能ですが、高齢者の場合は疲労が起こる前に体そのものに危険が生じる可能性があるため、軽い負荷だとしても追い込むようなトレーニングは避けるべきです。

(石井 直方:〈東京大学教授〉石井直方の新・筋肉まるわかり大事典 (B・B MOOK 1249):ベースボールマガジン社:2015)



ちなみに、高齢者の運動全般にあたっては一般的に以下のように言われています。

○留意点

・高齢になると体力の個人差が大きくなる。そのため、個人の体力レベルに応じた運動処方が非常に重要である。
・高齢者では環境の変化に適応しにくいため、運動に慣れるまでは運動量や強度は低く設定する。
・運動前後のストレッチは時間をかけて行う。
・疲労や痛みなどの症状については、運動時だけでなく、運動2~3日後までの様子も聞いておく。
・運動後に関節の痛みや腫脹・熱感、3日以上続く強い筋肉痛が見られる場合は、運動の内容や強度を変更する。
・運動の継続が重要であるため、楽しく無理のない範囲での運動を選択する。
・空腹時や食後すぐの運動はできるだけ避ける。
・運動時の転倒には十分注意する。


以上の事に注意しながら運動療法を進めていくと良いでしょう。

では、具体的な運動処方としてはどのくらいの負荷をかけていけば良いのでしょうか?

運動強度としては、筋力増強・筋肥大を目的とするのであれば、1RMの60~80%(8~15RM)あるいは、Borg主観的運動強度スケールで15~17が目安とされています。

ただし、1RMの85%以上の強度となると、高齢者では筋骨格系障害のリスクが高くなるとされています。

(市橋 則明:高齢者の機能障害に対する運動療法―運動療法学各論:文光堂:2010)


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高齢者 後ろ姿

高齢者は動作の敏捷性が低下しており、転倒のリスクが高くなっています。

敏捷能力には①反応時間、②運動の切り替えの素早さ、③筋の収縮速度の3つの要因が含まれています。

これらは加齢により低下してきますが、この3つの要因により高齢者は素早く動作する事ができなくなっています。

主な原因としては、収縮速度が速いtypeⅡ線維(速筋線維)が優位に萎縮してしまう事、拮抗筋の共収縮(co-activation)増加により強調的な関節運動が阻害されている事にあります。

こういった敏捷能力の低下に加え、筋パワーが低下する事で高齢者は転倒を起こしてしまいます。

こういった場合、敏捷性向上のためのトレーニングとしては、遅い筋収縮速度のトレーニングよりも速い筋収縮速度でのトレーニングが有効となります。

実際に筋力トレーニングをする際は、速筋線維(typeⅡ線維)に対して筋肥大を目的に負荷をかけていく場合、強い負荷が必要となってきますが、高齢者で行う際には筋骨格系障害のリスクが高くなったり、モチベーションの低下などあまり強い負荷はお勧めできません。

高齢者に対して行う際には、自重を用いたトレーニングで主に立位中心のトレーニングが安全で簡便に行えます。

実際には、Borgスケール15「きつい」を超えない程度で徐々に負荷を上げていきます。

具体的なトレーニングメニューとしては、以下の通りです。

①椅子からの立ち上がり

→できるだけ素早く動作を行います。負荷を増やすには、椅子の座面を徐々に低い物にしていく事で増やしていきます。

②ステップ台の昇降運動

→できるだけ素早く登り降りします。これも、台の高さを徐々に上げていき難易度を高くしていきます。前方からの上り下りや、側方からの上り下りで下肢全体をトレーニングします。

③交互足踏みトレーニング

→できるだけ立位で速く足踏みを行いますが、立位バランス不安定な患者さんは手すりなど支持しながらの足踏みから開始していきます。できるようになれば、徐々に難易度を上げていき、不安定なバランスマット上での足踏みなどを行っていきます。

④ステッピングトレーニング

→前方・側方・後方へのステッピングの練習ですが、素早く足を踏み出していきます。一歩踏み出す大きさは徐々に大きくしていきます。

⑤クロスステッピングトレーニング

→前側方や後側方に一歩足を踏み出して戻す練習です。素早く足を踏み出していきます。できるようになってきたら、徐々にステップの速度を速くしていきます。

(武良 由雄、市橋 則明:理学療法プログラムデザイン〈2〉ケース別アプローチのポイントと実際:文光堂:2012)


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臨床上、リハビリテーションを必要とする対称の方は、高齢の方が多いのではないかと思われます。

高齢者になると、筋力が落ち、転びやすくなり、歩行スピードが落ち、背中が曲がってくる傾向にあります。

高齢者 写真

こういった変化というのは一体どのような事が生じているのでしょうか?

加齢に伴う機能的な変化は以下の通りです。

高齢者で生じる加齢に伴う機能低下 ブログ用

バランス能力の変化としては以下の変化が生じてきます。

・高齢者の姿勢制御では深部受容器からの情報不足を補う為に、視覚情報がより必要となる。そのため開眼よりも閉眼時の重心動揺が大きくなり、特に80歳以上で著明となる。
⇒高齢者では固有感覚の機能が低下してしまうので、なんとか視覚からの情報で代償しようとする傾向が臨床上よく見られます。確かに、閉眼においての立位保持ではすごく不安定になりますね。夜間時のトイレへの歩行など、視覚情報の少ない環境では特に注意が必要になるものと思われます。また、視覚や前庭感覚に頼るあまり、肩が上がってしまうような姿勢になってしまうのも固有感覚の低下によるものではないでしょうか?

・高齢者の姿勢制御の特性として、足関節戦略より、股関節戦略を用いる傾向にある。
・高齢者では、若年者より足関節周囲筋の反応開始までの時間が遅い傾向にある。

⇒高齢者では、足関節の機能が低下して、股関節戦略に依存するバランス反応をとる患者さんが多いのではないかと思われます。股関節戦略中心のコントロールを行う事によって、足関節は余計に固定させるような制御になり、足部の働きが低下する傾向にあるのではないでしょうか?治療において、足部への介入もバランス能力向上のためには、非常に大切という事ですね。

・高齢者の外乱刺激に対するステッピング反応は若年者に比べ、1歩のステッピングだけでは踏みとどまれずに、複数回ステッピングしたり、踏み出したらそのままバランスを崩す傾向が見られる。
⇒まあ、イメージできますよね。1歩踏み出した時に踏みとどまれない原因としては、踏みとどまる側の股関節の周囲筋の筋発揮の低下ですが、筋発揮不十分のために転倒リスクが生じています。外乱時に姿勢が崩れたり、ステップが複数回なるような方はまだまだ、転倒リスクが高い印象ですね。

○高齢者の歩行の特徴
・歩行速度の低下
・歩幅の短縮
・両脚支持時間の延長
・歩隔(step width)および足向角(foot angle)の増大
・遊脚期での足の挙上と低下
・腕の振りの減少
・体幹回旋の減少
・体幹前傾位
・不安定な方向転換
・振り出し時の足関節底屈と股関節伸展の減少
・踵接地時の足関節背屈の減少
・立脚期の膝関節屈曲位

⇒やはり、臨床においての高齢者の歩行もこのような特徴がありますね。

・高齢者における歩行パターンの変化の中で、特に歩行周期や歩幅の変動性が大きい高齢者は、転倒リスクが高い事が報告されている。
⇒歩幅のばらつきやなど、一定しない歩行は転倒のリスクが高い。臨床上、ふらふら歩いている方は転倒しやすいですよという事ですね。これもよく当てはまりますね。

・歩行速度は60歳を超えるころから急激に低下する。これは、できるだけ速く歩いた時の最大歩行速度で低下率が著しい。
⇒60歳を超えると最大歩行速度がかなり低下してくるんですね。そういった事も頭に入れて、そんなに無理はできないんだなと念頭においておかないといけないかもしれません。

(市橋 則明:高齢者の機能障害に対する運動療法―運動療法学各論:文光堂:2010)


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学校で習うROMの値は健常者の値でありますが、臨床における高齢者のROMはその値より下回る事が多く、そのROMの値で問題にならない事が多いです。

実際に計測したROMの値が問題にとなるか検証するために、60~80歳未満の健常人のROM値を比較していきます。

◎60~80歳未満の健常人のROM値

肩関節
屈曲 161°
伸展 69°
外転 172°
内転 0°
外旋 91°
内旋 68°

肘・前腕・手関節
屈曲 141°
伸展 -5°
回内 87°
回外 89°
背屈 74°
掌屈 72°

股関節
屈曲 128°
伸展 11°
外転 35°
内転 22°
外旋 52°
内旋 26°

膝・足関節
背屈 21°
底屈 52°

(渡辺英夫:健康日本人における四肢可動域について.年齢による変化.日整会誌:1979)

◎筋力トレーニングにより、高齢者の筋力は向上するのか?

筋力トレーニングによる高齢者の筋力向上は、3059名のメタアナリシスによって有意な効果が確証されている。

筋力向上に対する効果を検討した研究は多数存在します。中でも、2009年に発表されたLiuらによる高齢者に対する筋力トレーニングの効果に対するシステマティックレビューが有名です。高齢者に対し、下肢筋力トレーニングを実施した群と実施しなかった群を比較すると、筋力トレーニングによって筋力向上が中等度以上は期待できる事が明らかとなりました。今さらですが、言うまでもなく、高齢者のリハビリテーションにおいて筋力トレーニングは欠かせない項目の一つと言えるでしょう。


◎高負荷と低負荷筋力トレーニングでは効果は違うのか?

高負荷と低負荷筋力トレーニングを比較すると、高負荷トレーニングの方が優位に高い効果を上げることが可能である。

高負荷トレーニング(54研究、2026名)でも、低強度から中等度トレーニング(19研究、1033名)のともに筋力強化に有効であると示されていますが、高負荷トレーニングと低負荷トレーニングを比較した研究(9研究、219名)では高負荷トレーニングの方が優位に高い効果を認めています。
ただ、臨床においては、高負荷トレーニングを実施する際に、その方の心疾患の程度や、血圧の変動、モチベーション有無などに注意しながら高負荷トレーニングを選択していくことが重要なのではないかと思われます。


◎対象者、トレーニング期間、運動項目の違いで、効果に差は生じるのか?

機能低下のない高齢者は、機能低下のある高齢者と比較して、筋力トレーニングの効果が高く得られた。また、筋力向上には有酸素運動よりも筋力トレーニングが有効である。

まず、機能低下のある高齢者よりも、機能低下のない高齢者の方が高い効果が得られていますが、これは機能障害を有する方のトレーニング強度は低強度から中等度の負荷であったために、負荷量の違いが効果量に影響していると思われます。
トレーニング期間に関しては、12週以上と12週未満の群で検討する研究があるが、有意差は認められていません。
トレーニング種目による効果の差に関しては、筋力トレーニングの実施者と、有酸素運動の実施者の効果を比較した研究(10研究、487名)では、筋力トレーニングの方が有意に高い効果が認められています。


◎筋力トレーニングによって痛みは軽減するのか?

変形性関節症をもつ限定した集団では、痛みが軽減する効果が認められた。

変形性関節症をもつ対象集団に、特異的な痛み評価を実施した研究(6研究、503名)のメタアナリシスにおいては有意なトレーニングの効果が示されています。


◎歩行、バランス、協調、機能的トレーニングでバランス機能は向上するのか?

歩行、バランス、協調、機能的トレーニングによって、対照群と比較し、介入直後にバランス機能の有意な向上が認められたが、追跡調査ではその効果は消失した。

歩行、バランス、協調、機能的トレーニングによる効果として、介入直後に開眼の片脚立位時間の延長が見られました。(4研究、164名)また、Berg balance scaleの得点向上も介入直後に見られました。(3研究、126名)ただ、介入終了後の追跡調査では、得られた効果の有意性は失われています。バランス機能の維持のためには、やはり継続的なリハビリテーションの介入が必要だと考えられます。


◎高齢者の持久力トレーニングによる体力向上の効果は?

高齢者に対する歩行練習などの持久力トレーニングは、有酸素能力を向上させる効果がある。

高齢者に対する持久力トレーニングに関しては、Huangらのシステマティックレビュー(41研究、2102名)では、介入後に有意に、有酸素能力を向上させる効果を有する効果が明らかになっています。実施した運動項目は約80%の研究で歩行練習を行い、そのほかにジョギング、サイクリング、階段昇降、ダンス、太極拳、屋外活動、ゲームが含まれています。


◎持久力トレーニングによって認知機能は向上するのか?

高齢者における持久力トレーニングの実施は、認知機能(認知速度、視覚的注意、聴覚的注意、運動機能)を向上させる効果をもちます。

認知症および、認知機能の低下した高齢者を対象として運動の効果を検討したメタアナリシスにおいても、運動機能、行動、認知機能が運動によって向上可能であることが示されています。

(市橋 則明:高齢者の機能障害に対する運動療法―運動療法学各論:2010)


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