Photo Gallery



運動失調とは何なのでしょうか?

運動失調とはどのような状態の事を言うかというと、「運動麻痺が無いにも関わらず、筋が協調的に働かないがために、円滑に姿勢保持や運動・動作が遂行できない状態」を言います。

具体的に、臨床ではどのような状態の事かというと、

水が入ったコップを持って飲もうとすると、腕がガクガク震えて水をこぼしてしまった。

文字を書こうとしても、ペンはしっかり握れているのにミミズが這ったように震えた字になってしまう。

歩行器で歩いていると、気をつけているつもりだが足を歩行器にぶつけてしまう。

下肢の筋力はしっかりあるが、独歩で歩くとフラフラしていつ倒れるか自分でも分からない感じがする。

左手で味噌汁の椀を持っていたが、食事しながらずっと支えておく事が出来ずこぼしてしまった。

階段を登る時に、つま先が階段に不意にぶつかって引っかかり前のめりに転倒しそうになるため、手すりを離す事が出来ない。

以上の現象は運動失調患者さんの一例です。運動失調の程度にもよりますが、このような症状が続くとADLが著しく障害される事が分かります。

こんな事が続くと考えただけでもイライラしそうですね。

運動失調を評価する前にまず大切なことは、不全片麻痺によって動かしにくいのか、運動失調によって動かしにくいのか判別していくことです。

ポイントとして運動失調だけでは無いかもしれないと言う所です。

脳血管障害の患者さんなどで放線冠、内包、視床、大脳基底核、橋などの病変では運動失調不全片麻痺(AH)と言って不全片麻痺と運動失調が同時に見られる事があります。

視床出血や橋梗塞の患者さんで、麻痺に加えて失調が生じるケースは非常に多いです。

この時、片麻痺が重度な場合は運動失調の症状はマスクされてしまうため、最初の評価では失調様の症状が少なかった印象なのに、片麻痺が改善してくる過程でだんだん失調様の症状が表面化してきてくる事があります。

理学療法のアプローチを行う際には、何の原因に対してアプローチするのか(運動麻痺に対してなのか、運動失調に対してなのか)が変わってくるので、患者さんが動作遂行しにくい原因をセラピストがまず考察していかなければなりません。

まずは、運動麻痺の評価です。

そして運動失調がメインだなと判断したら、今度は何性の運動失調かを考えていきます。

運動失調は大きく4つに分類されます。

①小脳性運動失調

<評価>
・深部感覚障害:陰性
・ロンベルグ兆候:陰性
・測定障害:陽性
・振戦:陽性(企図振戦)
・眼振:陽性
・深部腱反射:軽度低下
・歩行障害:酩酊歩行
・言語障害:陽性


<原因>
小脳や脳幹の血管性障害、小脳腫瘍、脊髄小脳変性症

②感覚性運動失調(脊髄後索性運動失調)

<評価>
・深部感覚障害:陽性
・ロンベルグ兆候:陽性
・測定障害:陽性
・振戦:陽性(粗大振戦)
・眼振:陰性
・深部腱反射:低下
・歩行障害:膝を高く パタンパタン
・言語障害:陰性


<原因>
脊髄腫瘍、変形性頚椎症、脊髄空洞症、多発性硬化症、末梢神経疾患、その他(代謝性疾患・感染及び変性疾患・中毒疾患)

③前庭迷路性運動失調

<評価>
・深部感覚障害:陰性
・ロンベルグ兆候:陽性〜±
・測定障害:陰性
・振戦:陰性
・眼振:陽性
・深部腱反射:正常
・歩行障害:ワイドベース、slow
・言語障害:陰性


<原因>
末梢前庭または前庭神経障害(前庭神経炎・メニエール病・感染性髄膜炎・膠原病・中毒など)、中枢神経系障害(多発性硬化症・脳幹梗塞・脳幹部腫瘍・小脳腫瘍・脳動脈瘤・高血圧性橋出血など)

④大脳性運動失調

<評価>
・深部感覚障害:陰性
・ロンベルグ兆候:陰性
・測定障害:陽性
・振戦:陽性
・眼振:陽性
・深部腱反射:一側亢進、病的出現反射
・歩行障害:動揺性歩行
・言語障害:脳局在による


<原因>
脳血管障害、脳萎縮、外傷、脳腫瘍、ピック病

以上のように評価と情報収集から、何性の運動失調なのかを見極めていきます。

そして今回は、臨床的にも多いと思われる小脳性運動失調に対するアプローチを記していきます。

◎小脳性運動失調に対するアプローチ

○従来から継承されている代表的な運動療法は実施してみて、効果があれば継続の価値あり

運動失調に対するリハビリテーションでは、従来から「重錘負荷・弾力包帯による圧迫・フレンケル体操・PNF・立ち上がりや立位の荷重負荷練習・視覚誘導によるバランス練習」が効果があると言われています。基本的には十分な評価の上、問題点を明確にして実施し、円滑な動作につながるようであれば良いと思われます。

ただ、注意する点はこの運動療法ばっかりを行うと、過剰なほどの代償や、過剰な練習量により疲労困憊にまで陥り、同時収縮が過多になり筋緊張が上がり、円滑な動作が逆に妨げられる場面もあるので、やりすぎには注意です。

○適切な感覚入力と、患者さんが課題に対してどこに注意を向けているかに気をつける

覚醒注意は感覚入力の調節や知覚に重要です。患者さんが適切な覚醒水準で能動的に課題に取り組む事がまず大事になってきます。患者さんをベッドに寝かせ、半分寝ている状態でセラピストが何をやっているか分からないような状態で足をひたすら動かしても何の感覚入力にもなりませんし、運動学習にも繋がりません。

例えば、大殿筋を賦活する目的でブリッジ運動を行なう際に、素早く動作を反復し、広背筋を始めとした同時収縮がバリバリの状態で重心がグラグラしながらのブリッジ運動をひたすら行なっても何の改善もありません。ただ患者さんは揺れを止めようと他の筋を動員するだけで疲れるだけです。

そこで、「骨盤と下肢が動揺しないように保持しながら、ゆっくりお尻を上げてください。ただその時は踵に体重がずっとかかったままです。」と言った課題を例えば与えた場合はどうでしょうか?患者さんは床と足底との摩擦の感じや、左右の下肢の荷重分配、どうやったら動揺しないように保持できるか目的の感覚に注意を払う事ができます。

大事なのは運動課題の設定は運動学的な要素だけではなく、運動の誤差情報の知覚と修正の観点からも工夫していく必要があります。

○適切な環境設定

立位時や、歩行時にグラグラして転倒のリスクのある患者さんは、何とかコケまいと同時収縮を強め、恐怖感を伴う代償固定を行います。過剰な代償動作をそのままにしておくと二次的な障害を生じてしまうこともありますので、環境設定により難易度を下げて動作しやすくしていくのも手段の一つです。

例えば、転倒のリスクがあれば歩行器や杖などレベルに応じて使用したり、ベッド周囲の環境もすぐつかまえることのできる家具を置いたり、手すりを設置したりします。

○運動課題の難易度に注意する

特に重度の運動失調患者さんでは、誤差の大きい課題からの運動学習は困難と言われています。運動課題の難易度設定は誤差が生じにくい簡単な課題から開始し、段階的に設定していく事が重要です。軽度の運動失調患者さんの場合は、当初大きな誤差が見られても、即時的に課題の難易度の適切な判断をするのではなく、ある程度の経過でパフォーマンスの改善度によって判断する事が良いとされています。

運動療法の原則としては以下の通りです。

1)運動のスピード:ゆっくり⇨徐々に早く
2)運動のパターン:平面的(単純)⇨立体的(複雑)
3)支持基底面:広い⇨狭い
4)運動の方向:単一方向⇨多方向
5)運動の範囲:小さい⇨大きい
6)重心の高さ:低い⇨高い


運動課題は徐々に難しくしていきましょう。

例えば、立位訓練も普通に立つ訓練から、徐々に足の幅を狭めた状態で立ってみたり、立位の状態で重心移動を前後左右にしてみたり、そこから上肢の運動を入れてみたり、いろんな方向にリーチしてみたり、ステップを出してみたりしながら歩行訓練につなげていけたら良いのではないでしょうか。

○近位関節への体性感覚入力も有効

グラグラ動揺が出現する時というのは、上下肢の遠位を動かす際に近位関節で過剰固定を強める場面が多いです。

こういった時に股関節や肩関節などに直接軽い接触刺激を与えた状態で、その箇所を意識的にリズミカルに動作させると、遠位部分の操作が円滑になり、近位関節での過剰固定を減弱させる事ができると言われています。

こういった体性感覚入力により動揺が軽減する場合もあるので、試してみる価値はあります。

○フィードバックからフィードフォワードへコントロールするための反復練習

フィードバック機構による運動学習(フィードバック誤差学習)を繰り返すことにより、フィードフォワード機構の再構築化を図る事ができます。動作を繰り返すことで動きを円滑化させ、日常生活が安定して行えるようにしていくことが大切です。

ある動作においての運動課題を、一連の動作として遂行できない場合は、運動をいくつかの動作に分けて行い、最終的に連続した運動として行えるように練習していくと良いとされています。

例えば、椅子からの立ち上がりにおいて、失調が強く立ち上がりの一連の動作ができない患者さんにおいては、椅子座位で足を後方に引く動作・体を前に倒す動作と分節化し、それぞれを繰り返し行い、徐々に一連の動作として行えるようにしていくと良いと思われます。

○どの部分がどのように、どのような時に不安定になるか評価し、その部分にアプローチする

運動失調といえど患者さん全員が同じような失調症状となるわけではなく、生じた「動揺」がどの方向に・どのくらいかなどを患者さん個別で十分に評価しなければなりません。

立位バランスでもちゃんと足関節戦略・股関節戦略・ステッピング戦略が生じているのか、左右前後の支持基底面内での重心移動の中でどの方向に不安定性が生じているのか十分に評価します。

倒れやすい方向や、バランスのとりにくい場面があればそれがその患者さんの転倒のリスクとなり、そこが治療介入のポイントになると思います。

○エアロバイクやトレッドミルなどの機器の使用


(斉藤 秀之、加藤 浩、金子 文成:感覚入力で挑む―感覚・運動機能回復のための理学療法アプローチ (臨床思考を踏まえる理学療法プラクティス):文光堂:2016)



(小林 純也:脳卒中患者だった理学療法士が伝えたい、本当のこと三輪書店:2017)



(解良 武士:運動療法学 (15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト):中山書店:2014)



(潮見 泰蔵:脳卒中に対する標準的理学療法介入―何を考え、どう進めるか?:文光堂:2017)



(後藤 淳:運動失調に対するアプローチ:関西理学療法:2014)

スポンサーサイト






おおよそ全国に3000〜4000人程度いると言われるボバース研究会の会員数ですが、昔からずっと同じことをやっているのではなく、常に新しい知見を取り入れながら進化してきている概念です。

解剖・運動・生理学のベースはもちろん、脳科学や最新の医学を織り交ぜながら治療展開していきますが、あまりボバースコンセプトに触れたことのない方は、何を根拠に講師の先生が治療を行っているのか解らずじまいで終わってしまったり、ちょっと講習会に出て聞きかじりで臨床に取り入れて分かった気になっている人は、なんか残念な気がします。

もちろん、ボバースコンセプトさえ押さえていれば脳卒中リハビリテーションは十分だとは言い切りません。ただ、現代の脳卒中リハビリテーションのトレンドはトレッドミル歩行やロボットアシスト歩行、FES、バイオフィードバック、バーチャルリアリティトレーニングなど多様化しており、それだけの介入ではADLにつながる動きが促されなかったり、患者満足度が低い傾向にあると思います。

患者さんの部分的な問題点に固執せず、全体像から問題点を絞り込む動作分析主体の治療が、理学療法士として必要な治療なのではないかと思っています。

個人的な印象ですが、ちゃんとコンセプトを理解しているボバースセラピストはかなり患者さんの機能回復も良く、患者満足度も高い印象があります。やはりボバースセラピストは患者さんの個別の問題にいかに着目できるかと言うスキルがあるのだと思います。

そのためには、脳卒中の患者さんを目の前にして、何に着目して、何を考えるかが重要となります。

ボバースセラピストでなくても、ボバースコンセプトが何なのか、何を根拠に治療を考えていかないといけないのかを整理するためのオススメの書籍をご紹介します。

まずはこちら

脳卒中後遺症者へのボバースアプローチ〜基礎編〜 (運動と医学の出版社の臨床家シリーズ)
脳卒中後遺症者へのボバースアプローチ〜臨床編〜 (運動と医学の出版社の臨床家シリーズ)



 

内容としては、ボバースコンセプトの概念が分かりやすく書かれています。学生ではちょっと難しいし、ピンとこないかも知れません。ボバース研究会のサイトでは臨床に入って3〜5年目のセラピスト向けに書いていると書かれています。

臨床で患者さんを治療していく中で、「ああ、そういえばあの時の動きはこういう理由があったからか!とか、こういう事があるからこういう治療をしなきゃいけないんだ!」と納得する部分が多いです。

治療方法や考え方が一通り学べると思います。講習会を受けた後の復習用に非常に良いと思います。

脳卒中の臨床神経リハビリテーション―理論と実践

書籍の画像がありませんが、こちらの本は神経生理学的な根拠を元にした治療方法が紹介されています。

こちらの本も非常に臨床的で分かりやすいです。オススメです。

モーターコントロール原著第4版 理解が深まるDVDビデオ付―研究室から臨床実践へ



運動制御理論について学ぶならコレです。Cookさんという非常に有名な方がまとめられた有難い書籍です。

非常に分厚くて読み応えのある本ですが、一冊手元には必要ですね。

動作分析 臨床活用講座―バイオメカニクスに基づく臨床推論の実践



やはり動作分析を学んでいくならコレだと思います。ボバースコンセプトで学べる動作分析の概念をバイオメカニクス的な見知から体系的にまとめられた書籍です。石井先生はボバースとは全く関係ない整形専門の先生ですが、初学者でも非常に分かりやすいです。

この書籍を読んで、一度石井先生の講義を受けてみられると良いと思います。非常に講演の上手い先生ですので、学生からでも十分学べる研修会です。


リハビリテーションのための脳・神経科学入門



森岡先生が書かれたニューロリハビリテーションの基礎とも言える素晴らしい本です。入門と書かれていますが、サラサラと読めるほど簡単に書かれていないですが、非常に大切な事が書いてあります。

本を読んでみて少しわかりにくい場合は、森岡先生の研修会に参加して見ると良いと思います。森岡先生は全国を飛び回っておられますので、機会のある方は聞いてみてください。最新のニューロリハビリテーションの知見が学べると思います。

タッチ (神経心理学コレクション)



患者さんに触れると言う事はどう言う事なのか、何を考えて触れていくかで治療効果が違います。

この本を読む事で、患者さんへの適刺激はどうしたら良いのか考えさせられます。ハンドリング再考で是非一冊必要かと。

How to touchを学ぶならコレです。

脳と運動 第2版 ―アクションを実行させる脳― (ブレインサイエンス・シリーズ 17)



こちらの本は非常に読みやすく、運動を起こすための脳の仕組みがわかりやすく書かれています。

日常生活の中でこういう風に動く!といった時にどのような事が脳で起こっているのか知りたい時にはこれです。

レビューにもある通り、どの分野の人が見てもわかりやすいような本になっています。

感覚入力で挑む―感覚・運動機能回復のための理学療法アプローチ (臨床思考を踏まえる理学療法プラクティス)



個人的には非常に面白く読み進められたのでオススメです。

臨床において、どのようにして感覚入力をしながらアプローチしていく事が大事なのか、かなり目からウロコです。

脳卒中後遺症者へのニューロリハビリテーション~急性期から回復期の麻痺改善を目指す徒手的介入~[リハビリ理学 ME180-S 全4巻]
脳卒中後遺症者 の ADL障害 に対するアプローチ ~ PT ・ OT ・ ST の協業を中心に ~ [ 理学療法 DVD番号 me137 ]

 

こちらは書籍ではありませんが、日本ボバース研究会会長の伊藤克浩先生によってDVD化され、具体的な治療介入の方法や、個別介入の方法論がまとめられています。

視覚的に見る事が出来るので非常に分かりやすいです。
最近やたらと言われるCPGですが、結局どうやって賦活してCPGを駆動させるように働きかけたら良いのでしょうか?

CPGについては、以前述べました。⇨歩行におけるセントラルパターンジェネレーター(CPG)の働き

講習会などでもよく聞かれますし、臨床で治療していてもCPGのようなオートマティックな働きがあることを歩行練習をしていて感じる事ができます。なんとなくですが、、、

実際にCPGに影響を与える感覚としては、2つの筋の関与が大きいと言われています。

1つは股関節屈筋、もう一つは足関節底屈筋です。

股関節伸展運動に伴う固有感覚の刺激により、空中でステップするような反射的な動きが生じることについて古くから知られています。ラットにおいてもCPGによる周期的な筋活動は、身体を水平位で歩かせるよりも垂直位で歩かせる方が規則性を高めると言われています。(つまり股関節屈筋を引き延ばすような姿勢で歩くこと)

⇨こういったことを考えると、リハビリ中の歩行練習でもできるだけ股関節の屈筋に伸長刺激が加わるように工夫するといいんだという事がわかります。

立脚終期に生じる股関節屈筋の遠心性筋活動を感知する筋紡錘の情報が、遊脚期開始のタイミングに影響を与えているとされています。

股関節屈筋が伸長される固有感覚情報によって、歩行リズムが形成されていくため、トレッドミルなどで下肢をグイッと後ろに持っていくことにより、股関節屈筋を伸長する刺激もかなり有効なのではないかと思われます。


また、足関節底屈筋への荷重負荷も、徐脳猫の歩行中の底屈筋活動を増加させる因子とされ、CPGに影響を与える事が古くから指摘されてきました。現在では、荷重に伴って生じるアキレス腱のゴルジ腱器官を介した荷重刺激が重要な影響を与えると考えられています。

荷重下では足関節底屈筋の活動が上がり、荷重負荷が減少すると底屈筋の興奮は減少し、遊脚期の準備を始めます。

こういった刺激がCPGに影響を与えるのですね。

(大畑 光司:歩行再建―歩行の理解とトレーニング:三輪書店:2017)



慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者さんで動作後の息切れが生じる方は知らず知らずのうちに運動量が多すぎて息切れにより疲労感が強かったり、動作によっては酸素消費量が多くないのにも関わらず、息切れを生じさせてしまう事があります。

なぜ、息切れが生じてしまうのかを理学療法士が患者さんにちゃんと説明していく事が重要となります。

息切れを生じさせてしまう大きな原因としては4つあります。

①上肢挙上動作

⇨そんな事で息切れが生じるのですか?と思いたくなりますが、上肢挙上により息切れが生じるのは、上肢を挙上する事で胸郭の動きが制限される事が原因となるためです。上の方の竿に洗濯物を干したり、浴室で髪を洗ったり、上着の着脱、冷蔵庫の上のものを取るときなど意外とちょっとの時間の動きでも息が切れたりします。

②腹部圧迫動作

⇨これも知らず知らずの間にやって、なんで息がきれるのだろうと思う方は多いのではないかと思います。前傾姿勢を取る事で腹部が圧迫され、横隔膜の動きが制限される事が原因です。具体的には、下着・靴下・ズボンを履く際に前傾姿勢になる動作、床のものを拾おうとして前かがみになる動作などがあります。

③息止めの動作

⇨これも無意識にやってしまう事があるのではないでしょうか。息を止める事で、酸素を取り込めなくなる事が原因です。具体的には、排便時のいきみ、食事・洗顔・会話時です。

④反復動作

⇨つい一生懸命になるとやってしまいがちなのがこれです。力を入れ続ける事で動作が早くなりやすく、酸素消費量が増加する事が原因です。具体的には歯磨き・掃除機をかける・洗体・風呂掃除などです。

以上の①〜④の動作が生じないように、日常生活動作を行うように患者さんに指導していく必要があります。

ではどうゆうふうに工夫して動作をしていけばいいかと言うと、、、

○ゆっくり動く
○連続動作を避け、動作と動作の間に休憩を入れる
○呼気時に動く
○労作時に必要な指示量の酸素吸入を正しく行う事


となります。

ただ、患者さんは運動学や生理学の知識が無いので、どのようにして気をつけて良いのか分からない状態です。

具体的にどのような日常生活動作の指導の工夫をしていけば良いか紹介させていただきます。

①洗面でのポイント

・歯ブラシは電動のものを利用する
・肘を洗面台にのせて歯磨きを行う
・椅子に座って洗面する
・うがいの水は手ですくわず、コップを使う
・鼻カニューラをつけたまま洗顔する
・呼気に合わせて洗顔する


⇨患者さんは上肢を上げたままだと辛くなるので、自然と肘をテーブルの上に置いたりされます。そう考えると、テーブルの高さを適切な位置に設定すると患者さんも使いやすいかと思われます。

②排泄時のポイント

・息を止めずに、ゆっくりと息を吐きながら徐々に腹圧をかける
・便を柔らかめにコントロールするために、緩下剤を使用・調整する
・温水洗浄便座を利用する


⇨排泄時はやはり、いきまないように注意する事が大切です。普段から意識しておくように指導しましょう。

③更衣時のポイント

・前開きの衣服を選ぶ
・椅子に座って更衣する
・被り物の服を着るときは先に腕を通しておき、呼気に合わせて頭から被り、呼吸が整ってから鼻カニューラを付け直す
・下着を履いたり、ズボンの足先を通したり、靴下を履くときは、足を膝の上に乗せて履く
・衣服をあらかじめ重ねておく


⇨着圧のきつい靴下などは特に息切れが強く出現します。弾性ストッキングなどが必要であれば、それは他の方につけていただく方が良いかもしれません。

④入浴時のポイント

・脱衣所に座面の高い椅子を設置し、更衣や休憩に利用する
・シャワーを利用する
・浴室内では座面の高い椅子を利用し、洗面器や必要なものは台の上に載せる
・長めのタオルを利用し、腕をできるだけ挙上せず、下げたままで背中を洗う
・足を洗うときは、台の上に載せて洗う
・シャンプーハットを利用して洗髪する
・顔より高い位置でシャワーヘッドを固定して頭を流す
・洗髪・洗体の日を分ける
・半身浴を行い、体を冷やさないように乾いたタオルを肩にかけておく
・バスローブなどで体を保温して、椅子で休憩した後に体を拭いたり、着衣に取り掛かる


⇨日常生活の中で特に息切れを生じやすい入浴動作ですが、一気に動作を行わないように気をつけることと、頭を洗っている時に息を止めないように気をつける事が大切ですね。

⑤家事全般

・物干し竿の高さを低くする
・洗濯物、洗濯かごなどは下に置かず、台の上に載せる
・あらかじめ、座ったままハンガーなどに洗濯物を通しておく
・細かいもの(小さいハンカチ・靴下・下着など)は洗濯ネットにまとめて洗濯し、洗濯機から取り出しやすいようにする
・掃除は日にちを分けて行う。(今日はリビング、明日は寝室など)
・浴室掃除は長い柄のついたスポンジを利用する
・椅子に座りながら、食事の下ごしらえや調理を行う
・よく使う調理器具、食器、食品などはできるだけ低いところや高いところに保管しない
・食器洗い機を利用する


以上の①〜⑤が特に気をつけるべきポイントかと思われます。非常に参考になりますね。

しかし、息切れの症状の強い時など、動作が困難な場合は無理せず家族の方の協力を得たり、ヘルパーなどのサービス利用を駆使していくことも大切です。

本人が自分でできると思い込み、勝手に行ってしまい、動作後の息切れが強く出現したりと指導も難しい場面にも遭遇すると思いますが、一つ一つ動作指導を丁寧に行っていく事が重要かと思われます。

(桑原田 真弓、石原 英樹、竹川 幸恵:酸素療法まるごとブック: 救急から在宅までとことん使える! (呼吸器ケア2016年冬季増刊):メディカ出版:2016)




「この患者さんは明日から病棟内は杖歩行自立で歩いていただきます。」

こういった判断は担当の理学療法士が行いますが、何を持って自立と判断しますか?

いつまで見守りが必要なのですか?

なんとなく?

〜だからまだ自立は難しいとか、〜だからもう自立で大丈夫等と説明がきちんとできるといいですね。

回復期リハビリテーション病棟では、車椅子自立レベルの方が歩行器歩行自立レベルへ、歩行器歩行自立レベルの方が杖歩行自立レベルへとADLの段階を上げていく時期にある方が多いと思われますが、その具体的な自立のタイミングの判断は個々のセラピストの経験知に委ねられる部分が大きいと思われます。

新人のセラピストは、先輩に相談しながら進めていくことであると思います。

「そろそろ自立できそうかな?」など感覚的なものではなく、これができているから歩行自立で大丈夫と自信を持って言えるかどうかが大切かと思われますが、その歩行自立の基準が明確に説明できるといいですね。

まず、一番の問題はリハビリ中の「できるADL」と病棟内での「しているADL」に乖離が生じている患者さんがいるという事ですね。

リハビリ中の歩行練習の時にはしっかり歩いていた患者さんが、看護師さんと病棟内を歩くとやけにフラフラして倒れそうな時があると言う事はよく聞きます。

なので「しているADL」を見ることのできる看護師さんに協力していただき、簡便な項目で評価できたら起こるべき転倒を未然に防げるのでは無いかと考えられます。

今回は、実際に東京厚生年金病院で実施されている評価を参考にさせて頂きます。

評価項目は以下の通りです。

◉病棟内歩行自立判定テスト(東京厚生年金病院リハビリテーション室)

①ベッドのカーテンの開閉ができる。

⇨これは意外と立位バランスが良くないと難しい動きです。自分でやってみるとよく分かりますが、フワフワしているカーテンをリーチして掴んで、左から右へ(または右から左へ)動かす動きはかなり下肢の支持性と重心制御のスキルが求められます。

これは、ベッドサイドでもリハビリ時にやっておくといいですね。結構、見落とされる動きです。

②後ろ歩きが3歩できる。

⇨高齢者の患者さんを始めとして、脳血管障害や運動器疾患の方以外にも後方不安定性が非常に多い中、後ろ歩きの評価は必須であると思います。

実用的にも3歩できれば十分かなという感じですね。普段そんなに5歩も10歩も後ろ歩きはしないですよね。

③立位で床に落ちた杖を拾うことができる。

⇨床に落ちたものを拾おうとして転倒したという事例は非常に多いです。まさに転倒あるあるです。

床のどこに落ちたかという問題もありますが、とりあえず床に落ちたものを拾う事ができるかどうかも必須項目かと思います。

④その場まわり(180度)が右回り・左回り共に行える。

⇨方向転換時にバランスを崩しやすいという問題です。方向転換の動きはリハビリ室で確認されていると思いますが、個人的には特に着座する際の方向転換で特にふらつきやすい印象があります。

もうすぐ座れるという安心感からか、崩れるように着座される方が多くいます。要チェックです。

⑤目標の場所まで到達できる。

⇨自室・食堂・トイレ・浴室・洗面台などそれぞれの目的の場所まで実際に行けるかどうかです。必要な移動距離が運動機能的な問題でリハビリの時にできてて、病棟内でできないという事はそんなに多いことでは無いかとは思いますが、重要な事であると思います。

これは、高次脳の問題などが含まれるかもしれません。

⑥机の前の椅子を引いて座り、立ち上がって歩き出す。

⇨立位バランスの悪い方は、椅子を後ろに引いた時にバランスを崩してしまうケースがあります。テーブルにはつかまるところが何も無いので、近くに人がいても転倒を生じてしまう事があります。

また、歩き出しの2、3歩は特にふらつきやすくなるため、立ち上がって歩き出した4、5歩くらいまで安定して歩けるのかどうか評価していけば良いかと思います。

⑦病棟の廊下を大回り1周できる。

⇨病棟内歩行自立にするという事は、患者さんに病棟内を自由に歩いてもらうという事であり、最低限の動線に加え病棟内を散歩することもあるかもしれません。

歩行時の持久力が低下している患者さんであれば、歩いているうちにだんだんフラフラしてきたり、だんだん小刻み歩行で前のめりの姿勢になってきたり、足をつまづかせたりなんて事があるかもしれません。

大きく1周は歩いて歩行に変化がないことだけは確認しておいた方が良いでしょう。

⑧病棟内の歩行自立が可能だと思う。

⇨これは、評価する看護師の経験的な予測や直感によるものです。高次脳機能や認知機能の問題も含んでいると思いますが、これが結構現場では重要だったりします。ベテランの看護師さんが「この人転びそう」という感覚はかなり当たっている事が多いです。

以上の①〜⑦までは実際の患者さんの動きを見て看護師が記入し、⑧は経験知に基づき判断してもらうものです。

現場では、①〜⑧項目が看護師により3日連続でクリアし、最後に担当医が自立の可否を決定するというものです。

それぞれの患者さんにより転倒要因は違うかもしれませんが、こういった側面で評価していくことも良いのではないかと思います。

(上内 哲男:回復期リハビリテーション病棟における歩行自立判定テストと自立後の転倒者率:2012)

WHAT'S NEW?