脳卒中後の前頭葉の病巣の方の場合のケア

 08, 2015 21:27
脳

脳卒中後の患者様で、パソコンあるいはシャーカステンを用い、情報収集した際、CTあるいはMRIなどで確認すると出血、梗塞部位が前頭葉に及んでいる場合、臨床上でどのようなケアの仕方を心掛ければ良いのでしょうか?

前頭葉症状に対するケアの実践は、看護師や介護士だけの仕事ではなく、理学療法士をはじめとするリハビリテーションスタッフも常に念頭におき、臨床にて実践していかなければなりません。

そもそも、前頭葉は外側面、内側面、底面から成り立ち、右半球、左半球、両側の組み合わせから把握していくことが大切です。

まず、CT、MRI上などで前頭葉の病巣が確認できた場合には、まずその方が、全体的に自分から行おうとする意欲が低下し、外に向かって働きかける力が弱まった状態になっている事を想定します。

つまり、自発性の低下や、発動性の低下です。

一方で、脳外傷などで底面の損傷がある場合は、逆に抑制が外れた状態となります。これは、感情やコントロールの低下によって病棟をウロウロ歩き回る、些細なことで怒りやすくなったり、場合によっては暴力をふるうような状態です。

次に、右と左の違いですが、左脳の前頭葉の障害では言葉の表出が、また、右脳の前頭葉の障害では自ら進んで行為や動作を表出することが苦手になります。

以上を踏まえ、一般的に前頭葉に病巣がある患者様のケアを行う場合は、まずは自発性の低下や発動性の低下の問題を念頭に置き、その自発性・発動性をなんとかアップするような働きかけが必要となります。そのためには、その基盤である情動系への刺激が必要になります。

一方で、抑制が外れた患者様の場合は、声のトーンを小さくしたり、患者様との距離をとったりと刺激量を考慮していきます。

次に、症状別の具体的なケアについてです。

○無動無言症

特に、両側の前頭葉内側の急性期の病巣においては、自らの発語がほとんどなく、目を見開いたままじっとしており、呼びかけに対しても反応が乏しい「お地蔵さん」のような状態です。

こういった方は、前頭葉の抑制によって情動系に強いブレーキがかかっている状態であり、ケアのポイントとしては本人の感情・行動を引き出してあげる事となります。例えば、家族からの情報を元に、昔の懐かしい時代に関連した写真や音楽を提示してあげたり、親しい人の声や映像の録音など、情動系に働きかける物を早期から提示して、患者様の抑制を外していく作業が大切となります。

こうすることによって、患者様が自分の言葉、行為、感情を表出できるようになります。

○自発性の欠如

右や左の前頭葉(特に内側)の病巣においては、自発性が低下する症状が見られます。以前は元気ですごくおしゃべりだったという情報があるのに、脳卒中後は覇気がなくなり、自分から積極的に話したり行動することがなくなった場合、この症状です。

こういった方は、用事のある時でも自分でナースコールを押すことがなく、訴えの表出に気付きにくい事が多くなります。

ケアのポイントとしては、気づきにくい訴えの1つ1つに目を向け、何を思っているのか、何がしたいのかを注意深く観察していくことが重要となります。

例えば病棟でも、ベッド上で座位になっているとか、柵を外そうとしている行動などから、トイレの訴えなのか、喉の渇きの訴えなのか、家族に関する事であるのか、行動の1つ1つに注意を向けていきます。こういった事で問題点を解決し、転倒・転落を防いでいく必要があります。

○強制把握

左および右の前頭葉の病巣(とくに急性期)においては、麻痺側の手に物が触れたとともに、手でつかんで離さないという現象を目にします。

ケアのポイントとして、つかんだ手を無理やり取ろうとしても、余計につかまれるので、力ずくにやるのではなく、つかんでいない方の手をつかんでいる手にそっと持っていき、つかんでいる手から別の手に注意を向けさせることで、つかんでいる手を緩ませます。

臨床においては、車椅子移乗の際にベッド柵をつかんで、その手を離さない様な例を見かけます。こういった時も無理やりつかんだ手を離すのではなく、もう一方の手に注意を向けさせることで、ゆっくり離して頂きます。

強制把握の手に直接バイブレーターなどによる振動刺激を与える方法で、筋緊張を低下させる方法もあります。

○保続

左や右の前頭葉の障害の急性期においては、ある行為や発話を始めると、同じ言動や行為をずっと繰り返すような現象が見られたりします。

ケアのポイントとして、こういった症状は脳がいっぱいいっぱいな状態であり、ある意味では脳に疲労がたまった状態で、少し休憩をはさんでから、次の行為の指示を与えるようにすることが望ましいと考えられています。

○ブローカ失語

画像上において、左の前頭葉の下前頭回後部を中心とした広範囲な病巣では、理解は保たれていますが、発語はたどたどしく、なかなか上手く言葉が出にくい症状である、ブローカ失語が見られる場合があります。

こういった方のケアのポイントとしては、「体に関すること」「睡眠に関すること」「食事に関すること」「排泄に関すること」などの領域を提示し、「はい」「いいえ」で答えながら、話の内容を徐々に絞っていく工夫が必要になります。

○発語失行

左の前頭葉(とくに中心前回や中心後回の下部)の病巣においては、発語失行が見られることがあります。

発音の症状としては、「おはようございます」が「おぎゃぎょうおあいあう」のように歪んだ発音になります。

この症状は単独で現れる事もありますが、ブローカ失語に合併することもあります。

ケアのポイントとしては、この症状が単独で現れている場合、理解力に問題ありませんので、落ち着いて聞き取ってみます。発話が分かりにくい場合は、筆談も有効です。

○遂行機能障害

左や右の前頭葉の外側面の病巣においては、我々が日常的に行っている「計画-実行-反省-修正-再実行」のサイクルが行えない症状が出てくることがあります。

ケアのポイントしては、言語の障害がない場合は、自分が行おうとする行動は言葉に出し、繰り返し言わせることが重要です。リハビリ時間や、入浴時間、食事、検査、診察などのスケジュール表を作成して、ベッドサイドの目の届くところに置くと良いです。また、服薬の自己管理が難しい場合がありますので、看護師が症状の程度によって、必要に応じて管理します。

○運動維持困難

右の前頭葉の病巣において、「目を閉じたままでいてください」とか、「口を開けたままでいてください」という口頭指示に対しても動作を維持することができずに、すぐ目を開いたり、口を閉じたりしてしまう症状です。

臨床上見逃しやすいですが、右の中大脳動脈領域の梗塞においては、約2/3で出現すると言われています。

ケアのポイントしては、看護師・介護士が剃毛や爪切りの時に怪我させないように気をつけることと、動作指示の与え方として、一つの動作に対して一つにするなど、複雑にしないように心がけることです。

○作業記憶の障害

左や右の前頭葉(とくに外側面)の病巣においては、必要な情報を記憶として一時的に保持し、再利用する事ができなくなる症状があります。いわゆるワーキングメモリーです。

ケアのポイントとしては、口頭指示の出し方も同時に2つ以上の指示は避け、1つの指示をだし、それが終わったら次の指示を出していくような工夫をします。

○尿失禁

まず、左や右の前頭葉の障害がある場合には、尿失禁がないか一度確認する必要があります。それは、前頭葉には排尿中枢の領域があるからです。

ケアのポイントしては、水分摂取の量と時間をチェックし、普段の排尿の時間間隔もチェックします。それによって、排尿時間をある程度予測し、排尿時間の少し前からトイレ誘導を行い、排尿リズムの習慣化につなげていきます。

一方で、服薬により症状の増悪をきたしている場合もありますので、主治医と相談も必要です。

○コルサコフ症状

前頭葉の底面の症状であり、前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血後に起こる事が多いとされています。また、視床の病巣に加え、大脳辺縁系の病巣でも見られる事があります。

コルサコフ症状の特徴としては、記憶障害があり、作話症状見当識障害病識の欠如が見られます。

ケアのポイントして、「忘れる」という事に関しては、忘れる事を想定して、あらかじめ1日のスケジュール表を作成し、壁に貼って置いたり、道順を描いた絵を目に見える所に置いておくなどです。「作り話をする」事に関しては、無理に否定せずに、患者さんの話があたかも本当にあったかのように、賛同して会話してあげる事です。

(小宮 桂治、酒井 保治郎:よくわかる脳の障害とケア―解剖・病態・画像と症状がつながる!:2013)


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